BPO業界の今後の動向は?人材不足の影響でニーズが拡大傾向に
社内業務の一部を外部に委託する「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」業界は、昨今堅調な成長を見せています。
その背景には、企業における慢性的な人材不足や、改正労働契約法による長期有期労働契約のリスク・コストの増加があります。
企業成長のために避けては通れなくなってきているこのBPOに、今一歩理解が追いついていない担当者の方もおられるのではないでしょうか。
今回の記事では、具体的な市場調査の数字を用いつつ、わかりやすく簡潔に、今後のBPO市場の傾向を解説していきます。
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BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)とは
BPOは、「特定の業務を工程からまるごと外部に委託する」という経営手法の1つです。
外部に委託する主な手法としては、外注、派遣、アウトソーシングなどが挙げられますが、BPOアウトソーシングの一種です。
BPOにおいては1つの業務をまるごと委託するため、アウトソーシングよりさらに広い範囲の業種を委託できます。
代表的な業務は事務系、倉庫系、IT系などに始まり、人事や財務、カスタマーサービス、マーケティングなど、ルーティン業務以外に人の判断が要求される業務や専門的な業務も委託可能です。
国内のBPO市場規模は毎年拡大傾向
国内のBPO市場は、劇的とまではないものの、毎年堅調な成長推移を見せており、着実にその規模を拡大しています。
株式会社矢野研究所が2018年に行った国内BPO市場調査による市場規模の推移予測では、2018年度の市場規模の見込みは4兆1752億円となっており、前年比と比べ2.5ポイントの上昇となっていました。その後の市場予測でも、2019年度で4兆2686億円、2022年度には4兆5266億円まで達するものとの予測がなされています。
慢性的な人材不足がニーズ増加の主な理由
市場規模拡大の主な理由は、企業の慢性的な人材不足です。
人員補填のために、よりコスト(人員募集や採用面接・研修など)の削減ができる人事採用業務のBPOを活用したり、小売事業におけるカスタマーケア業務をアウトソーシングしたりする企業の増加が、その根底を支えています。
特にカスタマーケア業務においては、インターネット光回線を他事業者が販売できるようになった「光コラボレーション」や「電気・ガスの小売り自由化」など、専門外の業種に事業を拡大する企業の増加が需要につながりました。
IT系BPOと非IT系BPOで拡大推移に開きがある
国内BPO市場を大きく「IT系」と「非IT系」で二分した場合、IT系BPO市場の拡大がより大きいものになると予想されています。
IT系BPOを非IT系BPOの定義は以下です。
IT系:システム運用管理業務に関するBPO
非IT系:その他の業務に関するBPO
2019年度のBPOサービス全体の市場規模4兆3,491億5,000万円のうち、IT系BPOが前年度比4.0%増の2兆5,758億3,000万円。
非IT系BPO市場規模が同2.2%増の1兆7,733億2,000万円と、全体の6割以上がIT系BPOとなっています。
新型コロナウィルスによる影響で、働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進をすることで業務効率化や生産性向上を目指す企業が増えていることが背景として考えられます。
企業が取り扱う情報・データの量が加速度的に増えていく見込みのもと、今後もさらにIT系BPO市場は拡大していくと考えられます。
同調査による2022年度までの予測は、年平均成長率は2.9%、最終的な市場規模は2兆7246億円です。
IT系BPOの具体例としては、外部委託による社内システム運用や社内情報をクラウド上に預けるデータサーバー運用などがあります。
これらIT系BPOには、自然災害などの緊急時に被る事業資産の損害リスクを分散できるというメリットもあります。
対して人事採用業務やカスタマーケア業務などは非IT系BPOに分類され、既にアウトソーシングが浸透しつつあるため、今後の成長は緩やかであると予想されています。
以下の記事ではBPO会社35社を分野別に紹介しています。どんな会社があるのか知りたい方はご覧ください。
【最新35社】分野別・BPOサービス会社一覧!大手から中小まで徹底比較
BPO市場の動向にプラスの影響を及ぼすと考えられる今後の要因
現在のBPO市場は、市場拡大に向けて追い風が吹いている状態です。その理由としては、人材不足問題の深刻化や、労働契約法改正による有期雇用契約コスト・リスクの増加などが挙げられます。
人材不足問題の拡大
前述のとおり、現在では業種を問わず慢性的な人材不足が問題になっています。しかし、人員募集・採用面接など人事採用業務に永続的にコストを割くことができる資金的・時間的体力がある企業は限られています。
さらに採用後にその人物が自社に適性のある人材であるかどうかを見極めるには、より時間・資金両面でのコストがかかることになります。そのようなリスクを軽減する方法として、人員の募集・選定など、採用業務に特化した人事BPOの利用が注目されています。
改正労働契約法の影響の拡大
平成24年と25年に施行された改正労働契約法により、アルバイトやパート・契約社員などが属する有期労働契約での雇用を、5年以上継続することが難しくなりました。
通算5年以上有期雇用契約を継続している労働者は、自らの意思により、無期労働契約に雇用形態を切り替えることができるようになったため、企業側としては有期労働契約による雇用に躊躇する要因が生まれたことになります。
しかし、BPOは企業と個人間の雇用契約ではなく社内業務の外部委託となるため、この改正労働契約法によるリスク・コストの増加を回避できます。
BPO市場の動向にマイナスの影響を及ぼすと考えられる今後の要因
成長が期待されるBPO市場にも、マイナスの影響を及ぼす懸念材料があります。
直接的に業務がAIに奪われていく労働力代替の増加や、競合や新規参入企業による価格競争の激化などです。
AI利用による労働力代替の増加
AI利用による既存業務の代替は着実に進んでいます。
特に作業がルーティン化された事務系の職種や、経理や税理士など、そもそもAIが得意とする計算分野の業種は、今後かなり早いスピードで代替されるといわれています。
そんな中でAIによる代替が難しい業種といわれているものには、以下のものが一例として挙げられます。
- 弁護士
- 医師
- 芸術系
- 教師
- デザイナー
- 経営コンサルタント
好調なことによる競合・新規参入の増加
市場の拡大が好調な業界には、後追いでの競合企業・新規参入企業の増加がつきものです。
これにより利用者側の選択肢が増え、価格競争の激化が起こります。需要自体は今後とも増加していく予想ではありますが、サービス自体の単価が減少することで、結果的に市場成長の障害になることが懸念されます。
特に人事BPOなどは、大規模な初期投資も不要でノウハウを持つ企業も多くあるため、新規参入のハードルも低く、2019年現在でも市場価格に影響が出ています。
BPOのメリット・デメリット
今後も拡大が予想されるBPOですが、メリットデメリットも理解した上で活用したい手法でもあります。
メリット
業務プロセスの効率化と品質向上
BPOはアウトソーシングと違い、単に一業務の遂行を委託するのではなく、業務プロセスの効率化や品質向上といった効果も期待できます。
自社内で運用されてしばらく改善されていない業務プロセスも、BPO会社が改めてコンサルティングをすることによりムダやモレをなくし品質の高い業務プロセスの構築ができる可能性があります。
選択と集中によるコア業務の強化
BPOを活用することで、業務の重要度に優先順位をつけることができます。
BPOを行う業務は主に、会社のノンコア業務です。ノンコア業務の特徴は、「企業のコアから遠く、重要度は低いが、煩雑で手間がかかる」ということ。これをBPOすることで、重要度の高いコア業務に集中できるようになります。
コスト削減
BPOは初期費用が掛かる場合もありますが、ただ業務を外注するだけでなく、効率化や標準化もサービス内容に含んでいます。
その分野に知見を持った人材を採用するとなれば採用コストや人件費もかかり、そもそも採用ができないという可能性もありますが、BPO会社に委託することにより短期間で無駄のないコストで成果を得られます。
デメリット
自社にノウハウを蓄積できない
BPO会社にまかせっきりにすることで自社にノウハウを蓄積できず、依存度が高くなる可能性もあります。
依存してしまうと契約を解除したときに自社で運用を実現するのが非常に困難です。
将来内製化も考えている場合は、ノウハウも含めて提供してくれるBPO会社を選ぶか、あくまでアウトソーシングや外注をするという選択肢もあります。
まとめ
社内業務を外部委託する「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」は、人材不足の増加や有期雇用契約のリスク・コストの増加により、着実な市場規模の拡大が予想されています。
BPOは大きく「IT系BPO」「非IT系BPO」に分けられますが、より高い伸び率が予想されているのは、IT系BPOです。これは今後、各々の企業が取り扱うデータ量の増加が見込まれていることが理由です。
しかし、業務自体のAI代替や、参入企業の増加による価格競争の激化・収益の減少など、市場に対してマイナスの影響をもたらす要因も同時に抱えています。
BPO業界の動向は、今後はより一層見ていく必要があるでしょう。