BCP。それは、人、企業、地域社会に向けた価値創造計画でもある。
最終更新日 2020.07.20
事業継続計画(Business Continuity Plan)を意味するBCP。これは緊急時に事業を継続・復旧させるために企業が取り決めておくための計画のことです。※BCPについてはこちらの記事を参照してください。企業の意識調査(※)では、「策定している」と回答した企業は16.6%、「現在策定中」(9.7%)、「策定を検討中」(26.6%)となり、調査開始以降最も高い数字となりました。
これは、新型コロナウイルスの感染拡大という過去に例を見ない事態を受け、感染症を想定したBCP策定の重要性が認識されるようになったためとされています。※2020年度帝国データバンク調べ
最近では、原材料や部品の調達先である取引先が被災することを想定し、取引先にもBCPの策定を求める声が少なくありません。BCPを策定している企業であることが取引先選定の基準になることもあるでしょう。
そのような中で、これからBCPを策定したい、内容の見直しを図りたいというとき、どのような視点で考えるのが良いのでしょうか。企業存続、緊急時における対応力の向上、企業イメージの向上などを念頭に置きながら、実際の企業の事例やBCP策定によってもたらされる価値について見ていきましょう。
目次
千差万別。企業の数だけ存在するBCP

BCP策定の重要性を知りつつも、まずは何から行えばいいのか悩まれる方も多いはず。そこで、まずは実際に取り組んでいる企業の事例を紹介します。
【会社の立地環境を考慮し、地震災害に備えている事例】
<包装材メーカー/本社所在地:東京都/従業員規模:50~100名>
会社の近くに首都直下地震を起こす可能性が指摘される活断層があることもあり、地震を想定したBCPを策定。建物内の危険箇所の把握、家具・商品の転倒や落下防止対策を行い、被災しても生産停止を防ぐ体制を整備しています。また、スムーズに計画を実行できるよう、従業員向けにBCPポケットマニュアルを配布。BCP訓練を通して、課題点の改善を重ねています。中小企業ながら「BCMS(事業継続マネジメントシステム)」の国際企画の認証を取得しているのは、BCP策定に対する真摯な姿勢の賜物といえるでしょう。
【日頃の災害意識が、安全確保や事業の早期復旧につながった事例】
<小売業/本社所在地:宮城県/従業員規模:500~1000名>
東日本大震災発生時に仙台駅前にある本店が被災。買い物客3,500人と従業員1,000人がいたものの、負傷者はゼロ。避難用の階段が非常時の通行を考慮して通常より広めに設計されていたこと、過去に地震や津波を経験した従業員が多く、災害時の対応が社内に日頃から共有されていたことで、迅速な避難につながりました。
被災翌日から路上販売を行い、約1ヶ月後には営業を全面再開。県外の百貨店と協定を結び、被災時に欠品した際はお互いに商品を供給しあうことで、事業継続を実現しています。
【顧客心理を先読みした行動が、さらなる信頼構築につながった事例】
<半導体メーカー/本社所在地:東京都/従業員規模:10,000名以上>
東日本大震災発生時に茨城県の半導体工場が被災。完全復旧するまでに約半年の時間を要した経験を踏まえ、BCPを策定しました。その後、2016年の熊本地震で現地の工場が被災した際は、BCPの手順に沿って従業員の安全確保や被災状況を確認。地震発生から約1週間で一部工程において生産を再開するとともに、完全復旧まで1ヶ月という目標を掲げました。そして、復旧に至るまでの状況をニュースリリースで8回にわたって公開。復旧を待つか、新しい仕入先を探すべきか判断を迫られる取引先の心境に配慮した取り組みとして、高く評価されました。
――このようにBCPに正解はなく、企業の規模や事業内容によっても対策は大きく変わります。緊急事態発生時に業務を止めることなく、いかに企業活動への影響を最小限に抑えられるかを考え、できることから準備してみてはいかがでしょうか。
「分散化」が、事業継続の鍵を握る

さて、BCP策定の際に注目したいのが拠点や業務の「分散化」です。万が一、災害やトラブルが起きても、社内システムや在庫などの資源が他の拠点から確保できれば、企業活動を継続できるからです。具体的には、クラウドへの電子データの保管、社外のデータセンターへのバックアップ、またメーカーの場合は、部品や原材料の調達先や倉庫を複数拠点に分けることも有効的です。その中でも注目したいのが、コールセンターの存在です。2011年の東日本大震災以降、リスク分散の意味合いから地方への進出を加速させる動きが目立っています。緊急事態発生時、コールセンターそのものの被害はなくても周辺地域の復旧が遅れれば従来の稼働は難しくなります。そんなとき、地方にコールセンターの拠点があれば、顧客接点の柱として機能し続けることができ、顧客満足度向上と企業ブランドの維持にもつながります。また、地方の場合、人件費や設備維持費が都市部より安いこともあり、コスト削減にも効果的。これも、コールセンターを地方展開する企業が増えている理由といえます。
過疎化対策や地方創生の一助にも
リスク分散を目的とした、地方への拠点展開――。それが社会的課題の解決につながる取り組みにもなり得るとしたら、BCP策定の意義はますます深まるのではないでしょうか。
都心の一極集中が進む中、地域活性化に貢献しようと地元や地方での就職を考える若者は少なくありません。そのような中で、地元のコールセンターで同じ仕事ができたとしたら、若者の県外流出を防ぐきっかけになります。人手不足や過疎化に悩む地方自治体にとっては有効な打開策であり、若者が地域に根付くことで税収が増え、財政面が安定するというメリットがあります。BCPの一環として、地方に雇用の場を創出することは、社会的にも価値ある取り組みでもあり、結果として企業イメージ向上につながるのではないでしょうか。
また、コールセンター以外にも「分散化」の手法はあります。それが、BPO(Business Process Outsourcing)サービス。総務、経理、人事・採用など間接部門の業務を継続的に外部の専門企業に委託することで、万が一自社が被災しても、業務の停止を防ぐことができます。また、BPOサービスの活用により出社する従業員の数を必要最小限にすれば、職場の感染予防対策にもなり、人件費やシステム関連費のコスト削減にも効果的です。幅広い業務を網羅できるBPOサービスだからこそ、BCP策定の選択肢のひとつとして持っておきたいものです。
勝ち続ける企業になるための、新たなスタートライン

事業継続の生命線でもあるBCP。それは従業員、取引先、顧客、地域社会などすべてのステークホルダーに対して価値あるものでなければなりません。信頼度の向上や競争力の強化、また社会的責任を果たしていくためにも、BCPの策定は企業にとって避けて通れない道。一度立ち止まって、事業形態や業務プロセスを見直すことで、事業継続のためのヒントが見えてくるでしょう。それにより導き出された独自のBCPが、未来を勝ち抜くための原動力になることは間違いありません。